ある日のリビドー
彼女と2人で話すのは初めてだった。
会社という空間で宿命的に発生する、生産には直接関わらない雑務を、押し付けられていた。その打ち合わせを会議室でしていた。
「この環境どう思います?」
「環境?」
「この会社」
「ヤバいね」
「ヤバいですよね」
「あの標語とか」
「あの標語は特にね」
会議室は、素人が力にまかせてパーテーションを動かして作られたようなもので、狭く空調が悪い。
彼女の体臭がうるさく感じる。
隣のテスト室では、ステンレスの棒を一秒間に1000発超合金のシートに打ちつける音がしている。
「私、土日とか暇で───というか毎日暇で」
「飲みにでも行く?今日でも」
彼女は確か、20歳かそこらだ。
目はぱっちりした方だが、さらに開かせようと弱くのりづけされていて、一重まぶたなのか二重まぶたなのか曖昧な感じだ。
「不可能ではないです」
定時前にoutlookのメールが届いた。
急用が入ったらしい。
不可能だったようだ。